トヨタ生産方式とは、自働化とジャスト・イン・タイムの二軸で構成されるトヨタ自動車の生産手法のことです。世界的に有名で、コストカットや製造ラインの最適化を図ることができます。
トヨタ創業時から確立されてきた生産方式であるがゆえに「古いのでは?」「時代に合わないのでは?」と疑問を抱くかもしれませんが、現代の製造現場でも通用する生産方式です。
本記事では、トヨタ生産方式の起源やメリット、注意点、導入の方法について解説します。「現場でトヨタ生産方式を導入したい」「導入の手順を知りたい」という方は最後までお読みください。
目次
トヨタ生産方式(TPS)とは
トヨタ生産方式(Toyota Production System)とは、トヨタ自動車で長年にわたって確立された生産方式です。別名「リーン生産方式」や「ジャスト・イン・タイム方式」とも呼ばれ、ニューヨーク証券取引所が称賛するなど業種業界を越えて世界的に有名になっています。
トヨタ生産方式は、「自働化」と「ジャスト・イン・タイム」の二本柱で構成されています。
自働化
自働化とは、製造工程で異常があれば機械がただちにラインを止めて不良品の発生を防ぐことです。そして、不具合の原因を追及し、対策を打つことで全体のムダを減らします。完全なオートメーション(自動化)ではないため、ニンベンの付いた「自働化」と表記します。
最初から機械やロボットに頼るのではなく、まず人間の手でラインを築き、改善をくり返していくことで、最終的には人間の付加価値が要らない(誰がやっても同じ作業になる)ようにして、ようやく自働化できるのです。
トヨタ自動車では「手作業」を技能の原点としてとらえています。モノづくりにおける匠の技能(カンやコツ)を、機械やロボットでもできるように新たな技術として織り込んでいくことで、自働化を実現します。
ジャスト・イン・タイム
ジャスト・イン・タイムとは、トヨタの創業者である豊田喜一郎氏いわく「必要なものを、必要なときに、必要なだけ」製造工程に届ける考え方です。あらゆるムダ・ムラ・ムリを排除し、お客様が求めるものだけを提供できます。
トヨタ自動車は、具体的に以下の手順でジャスト・イン・タイムを実現しました。
- お客様からクルマの注文を受けたら、なるべく早く自動車生産ラインの先頭に生産指示を出す。
- 組立ラインは、どんな注文がきても造れるように、全ての種類の部品を少しずつ取りそろえておく。
- 組立ラインは、使用した部品を使用した分だけ、その部品を造る工程(前工程)に引き取りに行く。
- 前工程では、全ての種類の部品を少しずつ取りそろえておき、後工程に引取られた分だけ生産する。
【出典】トヨタ生産方式|TOYOTA
トヨタ自動車におけるムダとは、加工や在庫、不良・手直し、手持ち、造りすぎ、動作、運搬など多岐にわたります。こうしたムダの発生を良しとすると、ムダがムダを生み、いずれ企業経営をも圧迫するでしょう。
トヨタ生産方式の起源
トヨタ生産方式の二本柱は、豊田一族にルーツがあります。
日本初の動力織機を開発した豊田佐吉氏は、手作業の「自働化」を手がけ、機械そのものに異常を判断させるようにしました。不良品を造らないのはもちろん、その判断に人の手を借りなくて済むよう効率化したのです。
豊田喜一郎氏はその思いを引き継いで、「物を造る場合の理想的な状態は、機械、設備、人などが全くムダなく付加価値を高めるだけの働きをしている」と考えました。これがまさにジャスト・イン・タイムの原点となっています。
トヨタ生産方式のメリット
トヨタ生産方式には以下3つのメリットがあります。
- 在庫を最小限に
- 人件費の削減
- トラブル対応の適正化
それぞれについて、具体的に解説します。
在庫を最小限に
ジャスト・イン・タイムで解説したとおり、在庫を最小限持つことでムダを抑えられます。製造ラインで使った材料だけを補充(発注)するので、過剰な在庫を抱える心配がありません。
人件費の削減
自働化により人の手がかかる作業が減れば、人件費を削減できます。例えば在庫管理や不良品発生チェックに必要なスタッフが要らなくなり、その分コストを削減できるでしょう。
トラブル対応の適正化
自働化では、機械やロボットが異常を検知するとすぐに製造ラインが停止します。トラブル発生時にもスピーディに対応でき、同じトラブルを2度と起こさないよう対策できれば、より効率的な生産につながるでしょう。
トヨタ生産方式の注意点
トヨタ生産方式はこうしたメリットがあるものの、万能ではなくいくつか注意点やデメリットも存在します。
在庫切れのリスク
在庫を最小限にするあまり、急な受注量増や災害による納品遅れなどトラブルが発生するかもしれません。ある一部品だけが欠品した場合にも、代替が効かず製造ライン全体がストップしてしまう可能性も。こうしたトラブルが起こった際には、クライアントからの信用を失ったり、売上が低下したりする恐れがあるでしょう。
また、そもそも「製造ラインの平準化」と「安定的な受注」を準備できていなければ、ジャスト・イン・タイムを実現することは難しく、失敗する場合あることを理解しておかなければなりません。
下請け業者の負担増
元請け企業がジャスト・イン・タイムを採用すると、下請け企業は小ロット受注による納入頻度や運搬費が増え、急な生産増への負担が生じる可能性があります。ジャスト・イン・タイムに協力してくれる下請け業者を見つけることも重要です。
また、小ロットの発注は大ロットの発注に比べて、一部品当たりがコスト高になる場合もあるため、思ったほどコスト削減できない可能性もあるでしょう。
トヨタ生産方式を導入する方法
以下、4つの方法でトヨタ生産方式を実現することができます。
- カイゼン
- 問題の見える化
- なぜなぜ分析
- 7つのムダどり
カイゼン(Kaizen)
カイゼンとは、トヨタ自動車が掲げる「より良いものを、より早く、より安く」を実現するための活動です。現場における生産効率や安全性を良くします。
「改善」と「カイゼン」の違いは、そのスタート地点です。改善はすでに悪いことが発生してから対処していくのに対し、カイゼンは悪いことが発生していなくとも現状より良くするため、自ら問題点を発見し、活動していきます。
- 【例】
-
改善:製造ラインで事故が起こってから、原因を見つけて対処する
カイゼン:製造ラインの危険な箇所を探し、未然に防ぐ
問題の見える化
問題の見える化とは、発生したトラブルをスタッフ全員に共有することという考え方。生産工程でトラブルが起こった際にはラインを止め、全員で原因を追及し、どのように対処すべきか知恵を出し合います。スタッフ全員がトラブルを自分ごと化することで、いち早く問題を解決できるでしょう。
なぜなぜ分析
問題の原因には、さまざまな要素が考えられます。表面的な原因はすぐに見つけられるかもしれませんが、根本的な原因を追及しなければ、トラブルが再発してしまうでしょう。
なぜなぜ分析では、1つの問題に対して「なぜ」を5回くり返します。5回くり返すことで、本質的な原因にたどり着くことができるでしょう。
なぜなぜ分析のやり方は、以下のとおりです。
- 問題を具体的に設定する
- なぜと問いかけて5回くり返す
- 原因を特定して対策を考える
問題が抽象的なままだと対策も抽象的になってしまうため、「いつ・どこで・だれが・なにを・どのように」と細かく設定することが大切です。なぜの問いかけでは、「思いこみや先入観をなくす」「主語を明らかにする」ことをポイントにすると、本質的な原因にたどり着けます。
最後に、対策を考える際には「本当に実行できるか」「継続できるか」という観点で取捨選択するといいでしょう。
7つのムダどり
トヨタ生産方式は、徹底的なムダの排除を目指します。特に重要となるのが「7つのムダ」です。
- つくりすぎのムダ
- 手持ちのムダ
- 運搬のムダ
- 加工のムダ
- 在庫のムダ
- 動作のムダ
- 不良をつくるムダ
生産現場における7つのムダを排除することで、作業や時間、コストの最適化につながるでしょう。ただし、なんでもムダを排除するのではなく、製造ライン全体を俯瞰して「本当に不要なのか」を判断することが重要です。
製造業の業務効率化に「実績班長」
「実績班長」とは、製造業の生産競争力を強化するためDXを推し進めるMESパッケージシステムです。製造管理、入出荷、在庫、検査などで起こるさまざまな課題を、データとデジタル技術により解決します。
トヨタ生産方式の「自働化」「ジャスト・イン・タイム」をはじめ、「問題の見える化」「7つのムダどり」を実現する後押しとなるでしょう。
- 【実績班長のおすすめポイント】
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- データ収集で生産進捗を把握
- 設備・装置とIoT連携
- 機械設備の異常やトラブルを管理者へ通報
- 生産実績をリアルタイムに連携
ラインや作業、作業者、設備ごとの実績などさまざまなデータを収集し、リアルタイムに管理することができます。ショット数や電圧、温度といった情報から機械設備の故障の予兆を発見。危険予知にも役立つでしょう。また、EPR・生産管理システムと連携することで、生産実績のデータをリアルタイムに把握すること可能です。
在庫の削減のために実績班長を導入した事例
高越鋼業株式会社は、「お客様からの納期問い合わせに、担当者が現場を走り回って1時間かけてようやく回答する」という問題を抱えていました。実績班長の導入で、在庫量をリアルタイムに把握し、瞬時の納期回答が可能となりました。
業種 | 製造業 |
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サービス内容 | ネジ類(タッピングネジ・各種アッセンブリーネジ) 及び ネジ検査装置の製造 |
- 【導入前の課題】
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- 導入前の検討段階から社員が参加してシステムを構築すること
- 紙ベースで行っていた業務をシステム化すること
- 集合説明会を開いて一斉に操作方法をレクチャーすること
- 【導入後の効果】
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- 導入からおよそ半年後には決算用データとして使用できるほどの精度でデータ取得を実現
- 納期管理ができるようになり、物量が増えても対応できる状態に
- データ入力までをオペレーションに組み込むことでリアルタイムなデータ取得が可能に
- 外注への指示管理が可能に
特に中間品在庫の管理精度が高まったことで、ムダな在庫を抱えず「作るべきものだけを作る」という体制の構築に成功。実績班長の導入前よりも物流量が増えたにもかかわらず、現場に滞留している在庫量は変わっていません。まさにトヨタ生産方式の「ジャスト・イン・タイム」の考え方を実現した好例となっています。
まとめ
トヨタ生産方式は、匠の技能によって支えられる「自働化」と、ムダを徹底排除する「ジャスト・イン・タイム」の2つで主に構成されています。製造ラインの最適化、トラブル対処の適正化を図れる点がメリットですが、在庫切れリスクや下請け業社の負担増といったデメリットも挙げられるでしょう。
実際に現場で導入するためには、「カイゼン」「問題の見える化」「なぜなぜ分析」「7つのムダどり」を実践することが重要です。
そのためには、まず数値化・言語されていない現場の状況をデータで示すことが欠かせません。実績班長では、現場に関わるさまざまなデータをリアルタイムで管理し、トラブル防止やムダの排除に役立ちます。
トヨタ生産方式を実現するために、実績班長の導入を検討してはいかがでしょうか。