製造業では、無駄なコストを削減しながら、常に安定した供給で売上を最大化することが重要です。そのために欠かせない取り組みとして「サプライチェーンマネジメント」があります。
今回は、サプライチェーンマネジメントについて、メリットや導入のポイントなどを解説します。成功事例も合わせて紹介するため、自社への導入を検討する際に役立つでしょう。
目次
製造業におけるサプライチェーンマネジメントとは
サプライチェーンマネジメントとは、原材料の調達から製品が顧客の元に届くまでの一連の生産・流通プロセスを管理することです。サプライチェーンとは、製品の原材料や部品の調達から販売に至るまでの流れを示す用語です。
サプライチェーンは必ずしも社内ですべてが完結するわけではなく、メーカー、卸売業者、物流業者、小売業者など複数の企業にまたがって成立しているケースが多く、管理が複雑化していることもあります。
製造業におけるサプライチェーンでは、各工程でロスが出ないよう最適化することが重要です。その最適化を図るための手法が「サプライチェーンマネジメント(Supply Chain Management)」で、その頭文字を取り、「SCM」という略称で呼ばれることもあります。
サプライチェーンの仕組み
メーカーで作られた製品が顧客に届くまでのプロセスは、大きく分けて次のような流れになっており、この一連の流れをサプライチェーンと呼びます。すべてのプロセスをメーカーだけで担うことはほとんどなく、それぞれのプロセスで担当する企業が異なります。
プロセス | 事業者例 | |
---|---|---|
1 | 原材料・部品の調達 | サプライヤー |
2 | 生産 | メーカー |
3 | 物流 | 物流事業者 |
4 | 販売 | 小売業者 |
サプライチェーンにおいて、それぞれのプロセスは密接に関係しているため、ひとつのプロセスだけを切り取って考えても意味がありません。
例えば、メーカーの努力で生産量を増やしたとしても、顧客が必要としている量を上回ってしまえば製品は売れ残り、過剰在庫を抱えることになってしまいます。また、サプライヤーから原材料や部品が届かなければ生産ができません。
こうした事態を防ぐために、サプライチェーンマネジメントによってサプライチェーン全体の最適化を図ることが重要です。
サプライチェーンマネジメントとERPの違い
サプライチェーンマネジメントに似た概念として「ERP」という言葉があります。ERP(Enterprise Resources Planning)とは、経営の基盤となるヒト・モノ・カネ・情報といった要素を可視化し、有効活用するための考え方です。
サプライチェーンマネジメント(SCM)と混同されやすいERPですが、両者には以下のような違いがあります。
SCM | ERP | |
---|---|---|
目的 | 生産プロセス全体における効率化 | 経営全体の可視化 |
管理範囲 | 生産管理・在庫管理プロセス | すべての経営資源 |
管理対象 | サプライチェーンに関わる部門のみ | すべての部門 |
対応している業界 | 製造業 | あらゆる業種 |
生産プロセスに特化した手法であるにサプライチェーンマネジメント対し、ERPは経営全体を対象としているため、サプライチェーンマネジメントは「ERPの一部」として内包された位置付けであると考えてもいいでしょう。
製造業でサプライチェーンマネジメントを行うメリット
製造業でサプライチェーンマネジメントを行うと、どのようなメリットが得られるのでしょうか。ここでは、代表的なメリットを4つ紹介します。
- 在庫の過不足をなくすことができる
- リードタイムを短くすることができる
- 安定した供給ができる
- 無駄なコストを削減し売上を最大化できる
在庫の過不足をなくすことができる
在庫量が少なすぎると販売機会の損失に、多すぎると余分なコストの発生につながってしまうため、在庫は過不足なく適正な量を維持することが大切です。
サプライチェーンマネジメントを導入すると、メーカーから小売業者に至るまで、各プロセスにおいて必要な情報を正確かつ迅速に把握できるようになります。そのため、物流、販売のプロセスから得た需要情報に合わせて最適な生産計画を立てられます。
需要と供給のミスマッチによって発生する過剰在庫や過小在庫といったリスクを最小限に抑えられ、適正在庫の保持が可能となります。
リードタイムを短くすることができる
サプライチェーンマネジメントに取り組むと、各プロセス間での素早い連携が可能になるため、リードタイムを短縮して製品を供給できるようになります。
近年、革新的な技術の進歩や時間に対する価値観の変化などにより、製品の提供に求められるスピードが速くなっています。ECサイトなどでは即日配送も当たり前になりつつあり、顧客の求めるタイミングで製品を提供するためには、リードタイムを短くすることが重要です。
安定した供給ができる
サプライチェーンマネジメントでは、何らかの原因でサプライチェーンが寸断された場合に備えて、複数のサプライヤーから原材料を調達できるようにしておくなど「リスク分散」に取り組むことが欠かせません。
こうした取り組みや、常に適正な在庫を確保することで、有事の際にも生産をストップさせず安定した供給が可能になります。製品を安定して供給できることは、顧客の信頼を獲得し、満足度の向上にもつながるでしょう。
無駄なコストを削減し売上を最大化できる
サプライチェーンマネジメントを導入すれば、在庫量を適正に保てるため、過剰在庫にかかる無駄なコストを削減し、過小在庫による販売機会の損失を防いで売上を最大化することができます。
また、リードタイムを短縮し顧客の求めるタイミングで製品を供給できることも売上の最大化につながるでしょう。
需要に合わせて供給体制を効率化し、最も適した体制を構築できるため人員や稼働時間のカットも可能で、人件費の削減につながるというメリットもあります。
製造業でサプライチェーンマネジメントを導入する時の注意点
製造業でサプライチェーンマネジメントを導入する時に注意したいポイントを以下に紹介します。
- 【製造業でサプライチェーンマネジメントを導入する時の注意】
-
- 関連事業者との連携は不可欠
- サプライチェーンを可視化
- 万が一のリスクに備える
- IT技術を駆使した管理体制を築く
関連事業者との連携は不可欠
複数の関連事業者で構成されるサプライチェーンの場合、サプライチェーンマネジメントを自社のみで完結させることは難しいでしょう。サプライチェーン全体の最適化を図るためには、関連事業者と連携しながら改善に取り組むことが必要不可欠です。
例えば、製品の生産を行うメーカー企業なら、販売を手がける小売業者と連携して需要情報を得たり、原材料の調達先であるサプライヤーと連携して課題の発見や解決に取り組んだりする必要があります。
リスクヘッジの観点から関連事業者を分散させている場合は、それぞれの事業者とどのように連携しサプライチェーンマネジメントに取り組んでいくのかを検討し、体制を整えておきましょう。
サプライチェーンを可視化
サプライチェーンマネジメントに取り組む際は、サプライチェーンの全体を可視化し、管理する対象を明確にすることが大切です。ひとつのプロセスだけを改善するのではなく、サプライチェーン全体の最適化を図ることが目的であるサプライチェーンマネジメントにおいては、全体像を可視化した上で課題の洗い出しや改善を行う必要があるのです。
例えば、自社の生産能力やサプライヤーの生産能力を具体的な指標で調査したり、物流事業者の配送リードタイムを把握したりすることで、自社のサプライチェーンがどのような課題を抱えているかを見つけ出せます。
サプライチェーンを正しく可視化するためには、ITシステムの導入も効果的です。システムを活用してすべてのアクティビティをデータ化し、関連事業者が同じデータを共有することで、「ヒト・モノ・カネ・情報」が見える化され、現状把握や課題解決に効果を発揮するでしょう。
万が一のリスクに備える
製造業では特に、ひとつの工程が滞るとすべてに影響を与えてしまうため、万が一のリスクに備えておくことが大切です。
例えば、大地震や豪雨災害、コロナ禍に代表される伝染病、システムトラブルなどが発生した場合に、被害を最小限に抑えて事業を継続させる必要があります。そのための計画が「BCP」と呼ばれており、サプライチェーンマネジメントにはBCPを盛り込むことが重要です。
具体的には、複数のサプライヤーから原材料を調達できるようにしておくこと、複数の生産拠点をもつこと、関連事業者のBCP対策を確認しておくことなどが挙げられます。こうした多面的なリスク対応により、変化に強いサプライチェーンを構築することが求められています。
ITを駆使した管理体制を築く
サプライチェーンが滞ることなく最適に機能するためには、常にリアルタイムの状況を把握することが大切です。しかし、膨大なデータを手動で管理することは非常に難しいでしょう。ITを駆使すれば、適切な管理体制を築きやすくなります。
例えば、IoTを活用してリアルタイムに情報収集をしたり、クラウドを用いて各プロセス間の情報を蓄積・共有したりすれば、サプライチェーン全体を可視化する仕組みを整えやすくなるでしょう。
近年、製造業のDX化が活発で、サプライチェーンマネジメントに活用できるソフトウェアやサービスも数多く登場しています。取り入れるシステムによってできることや使い勝手が異なるため、システム選びは慎重に行う必要があります。
サプライチェーンマネジメントなら実績班長がおすすめ!
製造状況を可視化しサプライチェーンマネジメントに活用するなら、「実績班長」の導入がおすすめです。
導入事例:東レ・モノフィラメント株式会社
ここでは、実績班長の導入により、リアルタイムな情報収集に基づく管理体制の構築に成功した企業の事例を紹介します。
業種 | 製造業(素材) |
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サービス内容 | モノフィラメントの研究、開発、製造 |
- 【導入前の課題】
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- 製造現場全体での状況把握が困難で、原価計算など会社の損益に関わる情報の把握にも時間が掛かっていた
- 自社開発システムの老朽化、ブラックボックス化と、後継者問題があった
- 【導入後の効果】
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- 製造現場全体のデータ可視化、リアルタイム把握が可能となった
- 棚卸業務の作業負担が軽減した
- 製造現場のシステムを実績班長に集約したため、部署異動時もオペレーション教育が不要となった
工場全体のデータを実績班長で一元化・可視化できたことで、原料から製品になるまでの全過程を俯瞰的に捉え、「どこにどの材料があって、どの製品がいつ出来上がるか」をリアルタイムに把握できるようになりました。そのため、作業負担の軽減や業務効率化といった改善活動の基盤が整ったことが大きな成果です。
「実績班長はMESの基本機能を有している上でカスタマイズの幅が広い。制約も少なく自由度の高い点が大きな魅力」と同社は話します。
導入事例:ビューテック株式会社
業種 | 自動車用内外装 樹脂事業 |
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サービス内容 | 自動車用・産業用強化ガラス、自動車用硝子の組付加工 |
- 【導入前の課題】
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- 作業終了後に人が日報を手書きするため、情報の精度にバラつきがあった
- 定時後に管理者が日報を回収し、Excel入力することで進捗把握していた
- 直接現場に見に行かないと装置の稼働状況が把握できないため、中断時間が長かった
- 現場の情報共有に時間がかかっているため、不具合の原因究明が進まなかった
- 【導入後の効果】
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- IoT活用により、成形機の稼働時間、ショット数など、正確な実績データ収集を実現
- 正確な情報をもとにした生産計画を定時内に立案することを実現
- リアルタイムな装置稼働状態監視により、トラブルの早期発見、装置稼働率の向上を実現
- 現場の情報がリアルタイムにデータ化され、カイゼンのPDCAをショートスパンで実現
これまで状況把握や対策に1週間かかっていたところ、実績班長の導入によりリアルタイムで状況を把握でき、スピーディーに問題を解決できるようになりました。製造実績のデータ化により「生産性の低い・高い」が一目で分かるようになったため、製品・機械・担当者の生産に関する評価が容易になり、全体の意識が高まったことも成果のひとつです。
導入時、同社は現場に拒否反応が起きないよう、簡単かつ間違いのない方法を目指していました。実績班長は、現場でも使いやすい端末や読み取り精度の高いツールを提案しているため、現場にもスムーズに受け入れられました。
まとめ
今回は、製造業におけるサプライチェーンマネジメントのメリットや重要性、導入のポイントなどを紹介しました。サプライチェーン全体を最適化するためには、IT技術を駆使して全体像を可視化し適切な管理体制を整えることが大切です。
IoTなどの機能が充実した「実績班長」を導入すれば、製造状況をリアルタイムに把握できるため、サプライチェーンマネジメントに役立つでしょう。