ヒヤリハット報告は、職場での事故防止に欠かせない取り組みです。本記事では、ヒヤリハットの意味とその報告の必要性、報告時の注意点、そして報告を社内で定着させるポイントを解説します。これを読めば、効果的なヒヤリハット報告を実践し、職場の安全向上に貢献できるでしょう。管理職や安全担当者はもちろん、一般社員もぜひ参考にしてください。
目次
ヒヤリハットとは
ヒヤリハットとは、事故や災害に至らなかったものの、危険な状況や問題点があった場面を指します。これらの場面は、事故や災害に対策するリスクマネジメントとして、用いられています。
ヒヤリハットがリスクマネジメントにつながる理由は、ハインリッヒの法則に基づいています。ハインリッヒの法則とは、1つの重大事故が起きる前に、29の軽微な事故と300のヒヤリハットがあるとする法則です。
このことから、ヒヤリハットを報告して把握し、対策を講じることは、重大事故を防ぐことにつながるのです。
ヒヤリハットの事例
ここからはヒヤリハットの事例を種類ごとに分類し、事例を紹介します。これらのヒヤリハットは全て厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」に紹介されています。
ヒヤリハットの種類 | 報告件数 | 事例 |
---|---|---|
墜落・転落 | 78件 | トラックの荷台で作業を終えて降りようとしたところ、テールゲートリフター(昇降機)から転落しそうになった |
転倒 | 53件 | 介護施設の浴室内で、清掃中に滑って転倒しそうになった |
激突 | 16件 | 埋立用廃棄物保管場で清掃中に、後進してきたトラクター・ショベルに激突されそうになった |
飛来・落下 | 48件 | クレーンのワイヤーロープが巻き過ぎによって切断され、土砂が入ったバッカンが立坑内に落下した |
崩壊・倒壊 | 20件 | 古紙等の集積場で3段に積まれた圧縮物が倒れ、付近を清掃していた人が下敷きになりそうになった |
激突され | 32件 | 丸太を運搬中のホイールローダーにひかれそうになった |
はさまれ・巻き込まれ | 44件 | 横中ぐり盤に腕が巻き込まれそうになった |
切れ・こすれ | 22件 | 竹林で間伐作業中、チェンソーがキックバック(跳ね上げ)を起こし、右足を負傷しそうになった |
高温・低温の物との接触 | 15件 | 炎天下で草刈りを行い、終業後に具合が悪くなった |
感電・火災 | 20件 | 調整作業のため機械にまたがろうとした際、電源ケーブルの絶縁被覆が破損していた箇所からの漏電によって感電した |
有害物との接触 | 24件 | パーツクリーナーで手を洗った後、煙草を吸おうとライターに火をつけた瞬間両手に引火した |
交通事故 | 25件 | 狭い道でトラックの後退を誘導中、電柱との間に挟まれそうになった |
動作の反動・無理な動作 | 19件 | 入浴介助中、利用者を抱えて浴槽の中で立ち上がろうとしたとき、腰を痛めそうになった |
破裂 | 2件 | 空気を充填したタイヤをトラックに装着していたところ、サイドリングが吹き飛んで作業員に当たりそうになった |
その他 | 4件 | ビニールハウス内の除草作業中、蜂に刺されそうになった |
参照元:職場のあんぜんサイト/厚生労働省
業種別ヒヤリハット事例
ここからは実際のヒヤリハット事例を業種別に解説します。
製造業のヒヤリハット事例
- 【ヒヤリハットが起こった状況】
- プラスチック製品製造業における混合機、粉砕機(プラスチック製造作業)中、ゴム手袋をはめた状態で手を混練機の投入口に入れ、スクリューに巻き込まれそうになった。
- 【ヒヤリハットの原因】
- 運転中の混練機の投入口に手を入れ、手袋を着用していたことが原因。特に袖や手袋の先端は回転するスクリューに巻き込まれる危険性が高い。
- 【ヒヤリハットへの対策】
- 回転機器で作業する際には手を出さないこと、また作業時には手袋を着用しないこと。根本対策として、混練機が運転中は手が入らないような投入口構造に改善すること。
建設業のヒヤリハット事例
- 【ヒヤリハットが起こった状況】
- 建設業における足場の解体作業中、足場材(腕木材)を取り外そうとしたところ、地上に落下させてしまった。落下防止ネットの一端が固定されていなかったため、足場材は道路まで落下した。
- 【ヒヤリハットの原因】
- 腕木材が架台に固定されていると勘違いして、腕木材と水平材を固定していたクランプを外したこと。また、落下防止ネットが適切に設置されていなかったこと。
- 【ヒヤリハットへの対策】
- 足場の解体作業開始前に、落下防止ネットの設置状態を点検すること。
運送業のヒヤリハット事例
- 【ヒヤリハットが起こった状況】
- 運送事業における配送補助作業中、道が狭くて左折できない状況で広い交差点までトラックを後進させることになった。補助員が車体の後方で誘導していたところ、車体と電柱との間に挟まれそうになった。
- 【ヒヤリハットの原因】
- 道幅の狭い一方通行道路でトラックを後進させたこと、および後方の誘導者を目視確認せずにトラックを後進させたこと。
- 【ヒヤリハットへの対策】
- トラックを後進させる際には、必ず後方の状況を確認する。運転者から誘導者を直接目視で確認できない場合は、バックモニターによる目視確認、または無線や集音マイクなどを使用した音声での確認ができる体制を整備する。また、事前に配送先付近の状況を確認し、適切な走行ルートを計画する。
参照:職場のあんぜんサイト/厚生労働省
ヒヤリハット報告の必要性
ヒヤリハット報告は、企業が安全対策を講じる上で非常に重要な要素です。社内で起こったヒヤリハット事例を集め、分析し、対策をとることで、事故の未然防止や同様の問題が再発しないようにできます。
ただし、自社で実際にどのようなヒヤリハットが起こりやすいのか事例を収集し、分析することが重要です。なぜなら、以下のような様々な要因によって起こりやすいヒヤリハットは異なるからです。
- 業種
- 工場の設備の種類
- 工場の設備の配置
- その他さまざまな要因
もし従業員がヒヤリハットに遭遇した場合、それを文書として報告してもらいましょう。報告された事例をもとに、組織全体で危険を認識し、安全対策を強化できます。
ヒヤリハット報告時の注意点
ヒヤリハット報告をする際にはいくつかの注意点があります。それは以下の3点です。
- 【ヒヤリハット報告書の注意点】
-
- ヒヤリハットが発生したらその日のうちに報告する
- 5W1Hを意識した文章で記入する
- 客観的な事実を記入する
上記のポイントを守れば、事故防止に向けた重要な情報の欠落なく、また誤解を生む余地がないクリアな報告書が作成できます。各ポイントについて詳しくは以下で説明します。
ヒヤリハットが発生したらその日のうちに報告する
ヒヤリハットに該当するような経験をした場合でも、報告が後回しになったり、忘れてしまったりする場合があります。しかし、これは良くありません。ヒヤリハットは発生したその日のうちに報告することが非常に重要なのです。
ヒヤリハットの報告が遅れる原因としては以下のようなものが考えられます。
- 業務が忙しいため
- ヒヤリハットの報告が習慣化されていないため
- 報告書の書き方が煩雑で後回しにしてしまうため
時間が経つと、事の詳細が思い出しにくくなったり、事件の重要な要素が忘れ去られたりするため、報告の遅れの原因を突き止めましょう。早期の報告によって問題の認識と対策の検討が迅速に進み、同じような問題が再発する可能性を最小限に抑えることもできます。
報告は安全対策のための重要な第一歩であり、その時々の状況に応じた対策を迅速に検討するためには、速やかな報告が不可欠です。
H3.5W1Hを意識した文章で記入する
ヒヤリハット報告を行う際には、5W1Hを意識した文章で記入しましょう。5W1Hを意識することで、事象が発生した状況を明確に伝えることができ、原因分析や再発防止策の検討に役立ちます。
5W1Hとは、以下の6つの要素を指します。
- いつ
- どこで
- 誰が
- 何を
- どのように
- なぜ
5W1Hを用いて情報を整理すれば、報告者自身が事象を客観的に捉えやすくなり、客観的な報告が可能になります。他の関係者が報告を読む際にも、状況が把握しやすくなるため、共有や検討がスムーズに進むでしょう。
5W1Hを意識した記入はヒヤリハット報告の効果を最大限に引き出す方法です。
客観的な事実を記入する
ヒヤリハット報告では、客観的な事実を正確に記入しましょう。なぜなら、事故の原因を特定し、再発防止策を立案するためには、事実に基づいた分析が必要だからです。
主観的な意見や感情ではなく、具体的な状況や行動を詳細に記述すると、問題の本質を把握しやすくなります。また、客観的な事実を記載することで、他者が報告書を読んだ際にも同じ認識を共有できるため、効果的な対策が実施される可能性が高まります。
客観的な記述は、ヒヤリハット報告の信頼性を向上させ、組織全体の安全意識の向上にも寄与するのです。
ヒヤリハット報告を社内で定着させるポイント
ヒヤリハット報告で重要なのは社内で制度が定着するかどうかです。定着しなければせっかく作った制度が形骸化してしまいかねません。ここからはヒヤリハット報告を社内で定着させるポイントについて解説します。
ヒヤリハット報告のための時間を設ける
日々の業務に追われる中で、ヒヤリハットに該当するような経験をした場合でも、報告が後回しになったり、忘れてしまったりする場合があります。
そのため、ヒヤリハット報告を定着させるためには、報告のための時間を設けることが重要です。設ける時間帯の例としては以下が挙げられます。
- 朝礼時
- お昼休み明け
- 定例会議
朝礼時にヒヤリハット報告の時間を設ければ、社員が報告を意識しやすくなります。お昼休み明けや定例会議の際にも報告時間を設ければ、報告が習慣化されるでしょう。
報告することに抵抗を感じる社員もいるかもしれませんので、報告の場を話しやすい雰囲気にすることも効果的です。このような工夫を通じて、ヒヤリハット報告が社内で定着し、安全意識の向上につながるでしょう。
報告することで評価が下がらないことを周知する
ヒヤリハット報告には、従業員自身のミスや不注意から生じる事例も含まれることがあります。そのため、報告することによって評価が下がるのではないかと不安に感じる従業員もいるでしょう。
しかし、ヒヤリハット報告の目的は、事故を未然に防ぐための対策を講じることです。大きな事故を防ぐためにも、ヒヤリハットを報告したことによって不利にはならない制度にする必要があります。
経営陣や上司が率先してヒヤリハット報告を奨励しましょう。そして、報告に対する評価はプラス評価であることを周知すし、従業員が安心して報告できる環境を整えましょう。
ヒヤリハット報告を通じて問題が改善された場合には、報告者に感謝の意を示すことも、報告文化を定着させる助けとなります。
ヒヤリハット報告書をシンプルにする
ヒヤリハット報告書のフォーマットをシンプルにすることは、報告の効率性と利用率を高めるために重要です。煩雑なフォーマットでは、報告をする際に時間がかかり、報告自体が負担となってしまいます。
シンプルなフォーマットにして、手軽に報告ができるようになり、報告の心理的ハードルも下がります。
また、できるだけ文章を書くスペースを少なくし、マークや丸をつけて完了できるようなフォーマットにしたり、書きやすいように例文を用意したりすることも大切です。これにより、報告者ごとに書き方がバラバラになるのを防ぎ、統一された基準で書けます。
心理的なハードルが下がれば、ヒヤリハットの発生頻度や改善策についてより正確な情報が集まり、組織全体で安全対策の向上が図られるでしょう。シンプルな報告書は、効率的な情報共有と組織の安全意識向上に寄与します。
まとめ
ヒヤリハット報告は、事故やトラブルを未然に防ぐための重要な取り組みです。報告の必要性を理解し、注意点を押さえて適切に報告できる制度を作りましょう。
また、さらにヒヤリハットを減らしたいなら「実績班長」の導入もおすすめです。プロセスの最適化により人的ミスを最小限に抑え、ヒヤリハットの低減に貢献できるからです。製造現場のヒヤリハット対策の一環として、「実績班長」の導入をおすすめします。