食品の安全を確保するための衛生管理手法「HACCP」。2021年6月からは、原則としてすべての食品関連事業者にHACCPの導入が義務付けられたため、食品製造の現場では対応が求められています。
今回は、HACCPの概要や7原則12手順、義務化や導入のメリットなどについて分かりやすく解説。さらに食品製造の衛生管理を効率的に行える製造実行システム「実績班長」もご紹介します。
目次
HACCP(ハサップ)とは
HACCPとは、食品の安全を確保するための衛生管理手法のことを指します。5つの英単語の頭文字をとった略称で、読み方は「ハサップ」、日本語訳は「危害要因分析重要管理点」です。
- Hazard ハザード(危害要因)
- Analysis アナリシス(分析)
- Critical クリティカル(重要)
- Control コントロール(管理)
- Point ポイント(点)
食品衛生において、危険となる要因を特定し、原材料の入荷から最終製品の出荷までのリスクを管理する方法です。
まずは、HACCPの起源や制定の背景、HACCPを構成する「HA(危害要因分析)」と「CCP(重要管理点)」について解説します。
HACCPの起源
HACCPの概念が初めて提唱されたのは1971年のことです。もとはNASAの月面探査「アポロ計画」において、宇宙飛行士たちが口にする宇宙食の安全を確保するために発案された手法でした。
その後、FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)により設立された国際的な政府間機関「Codex(国際食品企画)委員会」がHACCPを食品衛生の一般原則として発表し、徐々に世界に広まりました。
現在では、国際的な衛生管理の手法として普及しています。
HAとは
HACCPのシステムは「HA(危害要因分析)」と「CCP(重要管理点)」の2つから構成されています。
「HA(危害要因分析)」とは、危害要因が消費者に与える影響や発生頻度などを分析し、危害要因をなくす、または減らすための管理方法を明確にルール化することです。
危害要因は、以下の3つに分類されます。
- 生物的要因:食中毒を引き起こす細菌など
- 化学的要因:残留農薬、食品添加物など
- 物理的要因:食品に混入する毛髪や金属片など
HA(危害要因分析)では、こうしたリスクを避けるための管理方法を定めていきます。
CCPとは
「CCP(重要管理点)」とは、HA(危害要因分析)で予測した特定の危害要因を排除するために重要な工程のことです。
食品の加熱や冷却、包装などに関わる温度や時間といった細かいプロセスごとに徹底したリスク管理を行い、消費者に危害を与える恐れのある製品がつくられるリスクを削減します。具体例としては、完全に殺菌できることが科学的に立証されている125度以上での「超高温加熱殺菌」工程などが挙げられます。
CCPを定めたうえで、正しく実施されているかを継続的に監視・記録することも大切です。CCPが適切に管理されていれば、仮に問題が発生しても原因を究明しやすく、迅速かつ正確な対処が可能です。
HACCPの7原則12手順
HACCPは、Codex委員会の策定した「7原則12手順」で構成されています。具体的な手順について、以下の一覧表で簡単に解説します。
手順1~5は、原則【1】~【7】を進めるにあたっての準備段階として位置付けられています。
手順数 | 項目 | 内容 |
---|---|---|
1 | HACCPのチーム編成 | HACCPを管理するチームを編成。場合によっては外部コンサルなどに依頼。 |
2 | 製品説明書の作成 | 原材料・成分規格・消費期限・保存方法など製品の特性がわかる説明書を作成。 |
3 | 製品の用途および対象者の確認 | 製品の用途と消費対象者を確認。
【例】「加熱し、乳幼児が食べる」 |
4 | 製造工程一覧図の作成 | 原材料の受入から出荷、または消費者への提供までの流れを工程ごとに書き出す。 温度や時間なども詳細に記載。 |
5 | 製造工程一覧図の現場確認 | 作成した工程一覧図を現場と照らし合わせて確認。 必要があれば修正。 |
6 | 【原則1】 HA(危害要因分析)の実施 |
製造工程ごとに危害要因を抽出し、管理方法を決定。 |
7 | 【原則2】 CCP(重要管理点)の決定 |
危害要因の低減・除去のために特に重要な工程を選定
【例】加熱殺菌工程・金属検出など |
8 | 【原則3】 CL(管理基準・許容限界)の設定 |
CCPを適切に管理するための基準を設定。 温度・時間・外観など科学的根拠に基づいた判断指標を設定。 |
9 | 【原則4】 モニタリング方法の設定 |
定めた管理基準が守られているかチェックするための監視方法を設定。
【例】機器測定・目視確認など |
10 | 【原則5】 改善措置方法の設定 |
モニタリングの結果、管理基準を逸脱していた場合の改善方法を設定。 |
11 | 【原則6】 検証方法の設定 |
定めた手順が有効に機能しているかを検証する方法を策定。 |
12 | 【原則7】 記録・保存方法の設定 |
HACCPの手順を実施した証明として管理状況の記録・保存方法を設定。 |
HACCPは、原材料の入荷から最終製品の出荷までの一連の流れにおけるリスクを管理する手法で、ソフト面での衛生対策だといえます。食品の安全を確保するためには、HACCPと同時に、5S活動などハード面の取り組みも徹底することも重要です。
日本国内でのHACCP義務化
日本国内では、2021年6月からHACCPが義務化されています。ここでは、義務化の対象業者や対象業者が対応すべきことについて解説します。
義務化のタイミング
食品衛生法の改正により、2020年6月から始まったHACCPの義務化ですが、1年間の猶予期間を経て2021年6月からは、原則としてすべての食品事業者に適用されることとなりました。
厚生労働省は、HACCPに沿った衛生管理の制度化について以下の目的を発表しています。
- HACCPの取り組みを中小企業まで普及させるため
- 高齢化に伴う食中毒リスクに向けて、食品に起因する感染症の発生低減を図るため
- 先進諸国にならった国際標準のHACCPの浸透により、食品の安全性を向上させるため
義務化の対象者
原則として、すべての食品事業者が義務化の対象となります。
一部対象外となる事業もありますが、飲食店はもちろん、製造や加工・販売などを行う食品等事業者は、事業や組織の規模にかかわらずHACCPに沿った衛生管理が義務付けられています。
ただ、事業規模によってはHACCPに基づく厳密な管理が難しい場合もあるため、従業員数50名未満の小規模事業者には、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」としてやや簡略化された基準が設けられています。
対象業者がやるべきこと
HACCP義務化の対象事業者には、以下の対応が求められます。
- 「一般的な衛生管理」および「HACCPに沿った衛生管理」に関する基準に基づいた衛生管理計画を作成し、従業員に周知徹底する
- 清掃・洗浄・消毒や食品の取扱いなどについて具体的な方法を定めた手順書を作成する(必要に応じて)
- 衛生管理の実施状況を記録、保存する
- 衛生管理計画や手順書の効果を定期的に検証し、必要に応じて内容を見直す
【参考】厚生労働省|HACCPに沿った衛生管理の制度化について
HACCPと通常の検査の違いは?
HACCPが普及する以前の食品衛生管理では、最終製品の「抜き取り検査」が主流でした。抜き取り検査では、最終製品から部分的に抜き取ったサンプルが基準を満たしていれば、その生産ロットの製品すべてを合格と判断してしまうため、以下の問題点がありました。
- 不良製品を見逃してしまう可能性がある
- 問題が発生した場合、該当ロットの製品すべてを廃棄しなければならない
- 問題の原因を特定しにくく、対処に時間がかかる
一方、HACCPによる衛生管理は、あらかじめ工程ごとの危害要因を分析し、リスク低減のために特に重要な工程を継続的に監視することで、最終製品に問題が発生しないように管理していく方法です。
すべての工程で継続的かつ効果的な衛生管理ができるため、従来の方法に比べて問題の発生を防止しやすくなります。また、工程ごとの管理状況を細かく記録しているため、問題が発生した場合に、原因を特定しやすく迅速に対処できるという特徴があります。
HACCP導入のメリット
合理的な衛生管理方法であると世界的にも認められているHACCPを導入することで、以下のようなメリットがあります。
- 衛生管理意識の向上
- 事故・トラブルの防止
- 生産効率アップ
- 営業力強化
それぞれ詳しく解説します。
衛生管理意識の向上
HACCPによる衛生管理が義務付けられたことで、対象事業者は衛生管理計画書や手順書を従業員に周知徹底する必要があります。そのため、従業員の衛生管理意識が自然と高まり、積極的に衛生管理に取り組むようになることを期待できるでしょう。
これまでは、すべての従業員を巻き込むことが難しかったかもしれませんが、HACCPでは末端の従業員まで監視や記録といった役割を与えられます。作業に携わることで従業員の意識変化が生まれ、職場全体の衛生管理レベルを底上げ可能です。
事故・トラブルの防止
HACCPでは製造工程ごとに厳密な衛生管理を行うため、異物の混入や細菌による汚染などを防ぎやすくなり、常に一定水準の品質を保つことができます。
そのため、事故やトラブルを減らすことができるという点が大きなメリットだといえるでしょう。
生産効率アップ
事故やトラブルを減らすことができれば、その対応や改善に時間を割く必要もなくなるため、全体の生産効率が高まります。
例えば、滅菌処理が不十分な製品で食中毒が発生してしまった場合、消費者への対応に加えて、その時期に販売した商品をすべて回収・廃棄するといった処理をしなければなりません。こうした対応には時間や手間、費用もかかるため、一度トラブルが発生すると生産効率は大きく下がってしまいます。
HACCPに基づく衛生管理を徹底していれば問題の発生自体を防ぐことができるため、結果的に生産効率アップにつながるでしょう。
営業力強化
HACCPを導入している企業の製品は「安全性が保たれている」と認知されます。そのため、消費者や取引先からの信頼を獲得しやすくなり、販路を拡大できるメリットがあります。
例えば、すでにHACCPを導入している企業は、安全性が担保できないという理由からHACCPを導入していない企業の製品を取り扱うことはできません。
HACCPを導入すればブランド価値が高まり、これまで取引のできなかった企業とも取引ができるようになるため、営業力の強化につながるでしょう。
食品製造の業務効率化に『実績班長』
「実績班長」は、リアルタイムな情報収集を通じて現場の見える化を実現する製造実行システムです。
「実績班長」を活用することで、HACCPの導入を踏まえた品質管理といった食品製造の業務効率化が期待できます。
食品製造の業務効率化に「実績班長」をおすすめする理由は、以下の通りです。
- 【実績班長が食品製造の現場でおすすめの理由】
-
- 記録漏れを防げる
- 現場で使いやすい
- 他工程の様子をリアルタイムで把握できる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
記録漏れを防げる
製造工程で必要な記録を付ける際、手書きの帳票では記録までにタイムラグが発生してしまったり、記録をつけ忘れてしまったりすることがあります。また、急いで書いた文字があとから判読できないという問題も起こりがちです。
「実績班長」なら、その場でタブレットにデータを入力するだけで記録が取れるため、記録遅れや記録漏れを防ぐことができます。また、人が書いた文字の読みづらさからも解放されます。
そのため、製品の品質向上や作業効率アップにつながるでしょう。
現場で使いやすい
特にアナログからデジタルへ移行する場合、やり方が変わることに対して現場の従業員に拒絶反応が見られることもあります。
その点「実績班長」は、アラートが赤く表示され異常に気づきやすいなど感覚的に使えるツールで、従業員にも受け入れられやすいのが特徴です。
スマートフォンタイプの小型タブレットはネックストラップを付けて持ち運びもしやすく、製造の現場で使い勝手の良い仕様となっています。
記録漏れを防げるだけでなく、旧システムからスムーズに移行できるという点もメリットだといえるでしょう。
他工程の様子をリアルタイムで把握できる
食品を扱う現場は、衛生管理上の制約から各工程間に間仕切りが多く、他工程の様子がわかりづらいという問題があります。
「実績班長」なら、取得した複数のデータを一元管理できるため、離れたラインの稼働状況もリアルタイムで共有することができます。さらに、タブレットのカメラで現場の状況を撮影し、リアルタイムに検査記録と連携できる点も大きなメリットです。
そのため、 品質の異常に気づかないまま製造を続けるリスクを回避し、効率的に対処できるでしょう。
まとめ
HACCPは、食品の安全を確保するための衛生管理手法です。HACCPを導入することで、製品の品質向上だけでなく従業員の衛生意識や生産効率の向上、ひいては販路拡大など営業力の強化も期待できます。
HACCPに基づく衛生管理を効率的に行いたい場合は、多くの企業様より選ばれている「実績班長」をぜひご活用ください。